K.W. 英検1級二次試験 2018年
50歳までに英検1級
「このままじゃ、すぐに追いつかれちゃうな。。。」当時中学3年生だった長男があっさりと英検準2級に合格した時の事です。社内翻訳者として専門的な仕事をしている母親の私。このままボンヤリしていたらあっという間に長男に肩を並べられてしまいそうです。一方で、人生100年時代とも言われるようになり、退職後のセカンドキャリアを見据えて今いちど英語の勉強を深めておきたいという思いが以前からありました。学生時代に一度受験して玉砕してから封印されたままの英検1級。「もう一度、挑戦してみるか。」その当時の私は47歳。「50歳までに英検1級合格」という目標を立てて勉強をスタートしました。
忘れられない体験レッスン
1次試験は4度目にしてやっと合格、苦手なリーディングの失点を得意のリスニングとライティングの得点が何とかカバーしてくれました。2次試験も一筋縄では行かなさそうだと考えて、本試験の会場で配布されていたチラシが記憶にあった渋谷の「テソーラスハウス」への通学を検討しました。体験レッスンでの緊張を忘れることが出来ません。その場で提示されたトピックについて2分間のスピーチを行う。しかも準備の時間がたったの1分。なんとか話し終わるとすぐさま質疑応答です。当然うまく話せずしどろもどろで、春先なのに汗だくになりました。これは実践に近い形でのトレーニングが是非とも必要だな、と実感して入学を決めました。
苦しくも楽しかった3か月
レッスンはグループ形式で、毎週異なる分野のトピック(政治・国際問題、環境問題、医療、教育など)について生徒が順番にスピーチを行い、ネイティブ講師と日本人講師のお二人が英検の合格基準に照らしたアドバイスを個別にしてくれます。講師の先生方は幅広い知識と経験、そして多角的な視野をお持ちで、いつも的確な指摘をしてくださいました。クラスメイトのスピーチも着眼点や事例など勉強になることが多く、仲間のスピーチを聴くこともまた自分自身の糧となりました。最初の頃は全く形にならなかったスピーチも5回、10回とレッスンを重ねるうちに何とかまとまりがつくようになり、次第にクラスに参加するのが楽しみになってきました。
とはいえ、テソーラスに通っていた3か月間も家族のケアとフルタイムの仕事、そして趣味の楽器の演奏会、と多忙な毎日で、勉強時間の確保がなかなか大変でした。気づくと1週間が経っていて次のレッスンです。少し頑張って早起きをして、出勤前の時間を使って調べものやスピーチの内容を箇条書きでノートにまとめるようにしました。パソコンやノートに向かう時間以外にも、歩きながら、夕飯を作りながら、いつもスピーチの構成を頭の中で考えていたように思います。
また、環境問題や自然科学など自分の苦手な分野については家族の力を借りました。食卓に翌週の授業で扱うトピックが書かれた紙を張り出して夕食を食べながら家族で話題にしたり、自分のスピーチの骨子を説明して矛盾点や反論を考えてもらったり。
クラスメイトと励ましあえた事も勉強を継続するための大きな力となりました。作戦会議と称して授業後にランチを共にしたり、試験直前にはお互いエールを送ったり、不安な気持ちを分かち合うことで気が楽になり、本当に心の支えとなりました。皆さんそれぞれの志を持って英検の勉強に取り組まれていて、大いに刺激になりました。
気づき
英検の2次試験の勉強を進めていく中で、私自身に不足していて最も対策するべきだと感じた点は、社会問題を大きな視点で捉えること、そして因果関係を説明することの大切さでした。例えば、「仮想通貨」というテーマに関しては、今までは「投機的だから自分はやらない」と考えてそこで思考が止まっていましたが、「社会にどのような影響をもたらすのか」という問いを持ち込まれたときにはじめて、ブロックチェーンという技術の可能性や当局規制のあり方などを、より大きな視点で考えるようになりました。また、因果関係の説明不足はクラスで先生に再三指摘された点でした。「なぜその結論に至るのか」を注意深く説明しなさい、と。これは自分自身の知識や思考力の不足によるものであると同時に、日本人だけで日本語で生活していると陥りがちなコミュニケーション上の課題でもあると感じました。日本は単一民族国家で、共有するバックグラウンドが多い、ハイコンテクストな文化だと言われています。「いちいち説明しなくてもわかるはず」という思い込みで説明を省いて話を進めるようになりがちであるということに今更ながら気づかされました。個別の事象や事例が結論に結びつく因果関係の説明(ネイティブ講師はこれを consequenceと呼んでいました)、これを怠らないことはグローバルなコミュニケーションにおける一種のマナーや思いやりなのではないか。。。そんな事を英検2次試験の勉強を進める過程で感じました。
合格
いよいよ本試験の当日。いくつか準備していた得意分野のトピックは出題されませんでしたが、授業で扱ったことのあったメンタルヘルスに関するトピックに近いものがあったので迷わずそれを選びました。一度自分自身の頭で徹底的に考えたことのある内容は緊張した状態で時間の制約があるなかでも考えをまとめやすく、何とか2分間で自分の意見を伝えることが出来ました。結果的には、このスピーチ構成の評価で8割のスコアをいただいたことが得点源となり、合格に結びついたと思います。
こうして、先生方からの助言と励まし、クラスメイトとの支えあい、そして家族のサポートのお蔭で2次試験は無事に初回の受験で合格することが出来ました。49歳11か月。目標の50歳になる直前のことでした。合格後に気づいたのですが、テソーラスに通っていた3か月間は英語の勉強に関しては殆ど「考えて話す」ことしかしていなかったのですが、気づくと苦手だったリーディングのスピードが向上しているように感じました。以前よりも少し楽に読めるようになったのです。語学の4分野(読む、書く、話す、聴く)の勉強は相関関係にあり、一つの分野に取り組むことで他の分野が伸びることもあるのだと実感しました。
目標だった英検1級に合格した今、何か特別な力が自分についたという実感はなく、これまで歩んできた道のりの通過点、という感じです。自分にはまだ知らないこと、出来ないことが沢山ある、とより一層強く感じています。本格的な勉強を始めるためのパスポートをやっと手に入れた、そんな気持ちです。これからも楽しく英語の勉強を深めて行きたいと思っています。
最後になりましたが、厳しくも温かいご指導をいただいた小林先生、辛抱強くアドバイスを下さった講師の 先生方に心より感謝申し上げます。有難うございました。
2018年9月吉日 K.W.