「50歳専業主婦の挑戦」

2015年第1回合格 高島 康子 2015年

英検一級は難しい試験だと言われています。合格できるのは、一部の優秀な人間だけだと思っている方も多いでしょう。しかし、私は20年以上、平凡な専業主婦として過ごしてまいりました。頭脳明晰でもなければ、英会話は苦手、人前で英語を話す事に恐怖心さえ抱いておりました。こんな私が合格できたのは、テソーラスハウス、小林蕗子先生との出会いがあったからです。私の体験記が、英検合格を目指す方の一助になれば幸いです。

<英検を志した理由>

10年以上前から、趣味として英語学習を続けてまいりました。自分で自分に限界を作りたくないとの思いから、一級を目指しました。できない理由を、年齢や能力のせいにしたくなかったのです。いずれ、子供たちが巣立ったあとは、資格を基に一生続けられる仕事がしたい、それが少しでも人様のお役に立つものであればと思っておりました。

<私の戦略>

一次試験には何とか合格できたものの、二次試験は二回とも不合格A。独学に限界を感じ、テソーラスハウスに駆け込みました。驚いたのは、生徒さんのレベルの高さです。英語教師、帰国子女、外資系ビジネスマン、翻訳家など、流暢に英語を操る方ばかりです。この方たちでも合格できなかったのに、素人の私に勝算はあるのか?その時、一つの考えに思い至りました。それは、準備する事です。唯一の武器、時間を最大限に利用し、誰よりも準備しようと心に決めました。実力のある方なら、ポイントのみを用意し、即興で話す訓練をした方が効果的でしょう。しかし、私はそのレベルに達していません。できるだけ多くの完成スピーチを作り、それを身体に染み込ませ、最終的に即興で話せるところまで持って行こうと考えました。そして、会話力のなさをカバーするためには、話す内容で勝負しよう、一級受験者にふさわしい大人のスピーチをしようと、無謀にも思ったのです。

<私の勉強法>

一次試験合格後、小林先生の著書「これで完璧英検1級二次対策」を丸暗記してスピーチの型を身に付けました。この本は、非常にわかりやすく明快に書かれています。この本が出てから、一級の合格率が上がったとおっしゃる方もいるようです。テソーラスに通うようになると、どんどんスピーチ作りにのめり込んでいきました。一通り家事を終え、朝8時には机に向かいます。疲れてきたら、また家事をしたり、気分転換にピアノを弾いたり、ストレッチをしたりしながら、1日の大半をスピーチ作りに充てました。何かイベントのある時も、移動中の時間を無駄にしないようにしました。アイディアに詰まった時、寝る間際まで朦朧とした頭で考え続けます。不思議な事に、明くる朝、アイディアが浮かんでくる事も多かったのです。

<スピーチ作りへのこだわり>

目指したのは、日本人にもネイティブにもわかりやすく、かつ論理的で映像がありありと浮かんでくるようなスピーチです。トピックに関する最新の情報を、新聞、ニュース、インターネットから集め、まず日本語で理解します。そのあと、英語の記事にも目を通し自分の考えをまとめていきます。最もこだわったのは、自分の主張に説得力を持たせるためのexampleです。最新の時事ネタや印象的な出来事、身の周りで起きた逸話をexampleとして用いました。出来上がったスピーチは録音して、発音、抑揚、間の取り方、語感などをチェックします。音として伝わりにくい単語は別のものに替えました。強調したい部分では、声色を変え、力強く訴えかけるように話しました。気に入ったスピーチが出来上がるまで何度も修正を加えていきます。そして、出来上がったスピーチは、他のどんなスピーチや質疑応答に応用できるかシュミレーションしました。

<テソーラスに二期通って>

私は、ここで信じられないミスを犯してしまいます。スピーチ作りに夢中になり過ぎて、英検の申し込みを忘れていたのです。その時は、大変落ち込みましたが、今思うと、これがかえって良い結果をもたらしました。二期20回通えた事で、スピーチ作りへの理解が格段に深まりました。

小林先生は、スピーチの矛盾点、改善点を的確に指導して下さいました。一人一人のアイディアを大事にして、そこから、どう合格スピーチに持っていけるか、更に深みのあるスピーチにするにはどうしたら良いのか、知恵を絞って下さるのです。先生の洞察力の深さには、学ばせていただく所が多く、目から鱗が落ちる思いでした。

ネイティブの先生方は、政治、経済、文学、社会問題、あらゆる分野に幅広い知識をお持ちで、ご自分の意見を非常にロジカルに表明されます。時には、雁行形態論といったアカデミックな話題も飛び交い、知的好奇心を刺激していただきました。ネイティブがどのような話題に興味を示し、どんな人物に思い入れがおありなのか知る事ができ、スピーチ作りの参考になりました。

グループレッスンでは、毎回、用意してきたものと、即興の二つのスピーチを発表します。様々な視点から、自分には思いもよらないアイディアを伺う事ができました。同じ目標を持ち、励まし合えるお仲間の存在はありがたいものでした。

人は易きに流れると言いますが、テソーラスに通う事で、良い意味で自分を追い込む事ができました。二期目のレッスン初日に、小林先生に、毎週4つのスピーチを準備しますと宣言しました。厳しいノルマを課し、それをやり遂げる事で本番の自信に繋げたかったのです。最終的に、瞬時に口をついて出て来るスピーチは75個になりました。初期に作ったものを合わせると、100個以上のストックが出来上がったわけです。ですから、二期目は、即興スピーチでもアイディアが浮かんでくるようになりました。最後の即興スピーチのあと、「今までの努力が形になった成功例だと思います。」と小林先生から嬉しいお言葉をいただきました。

<大失敗スピーチでも合格>

今回失敗したら一次試験からやり直しになってしまう。極度のプレッシャーから、前日はどうしても眠る事ができませんでした。最悪のコンディションで本番を迎えました。スピーチを始める前、構成は出来上がり、exampleも2つ思いつきました。これで行けると、自信を持って話し始めたつもりでしたが、2つ目のポイントを言おうとした瞬間、全てが消えてしまいました。しばらく沈黙が続き、最後は、絞り出すように支離滅裂なセンテンスを2つ3つ述べたと思います。完全な失敗スピーチです。精神力の弱さから、一番大事な場面で自滅してしまったのです。あんなに熱心に教えて下さった小林先生に何と言ってお詫びしようと、目の前が真っ暗になりました。しかし、結果は合格でした。スピーチの点は低かったものの、質疑応答で挽回できていました。

トピックは「プライバシーの損失は現代社会において避けられないか?」でした。スピー チ、質疑応答で、exampleとして「フェイスブックが各国政府機関にユーザー情報を開示している件」「日本年金機構の個人データが不正アクセスにより流出した件」「アメリカ政府が、10年以上、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の携帯電話を盗聴し、それをエドワード・スノーデンが暴露した件」を盛り込みました。準備したexampleに助けられての合格だったのかもしれません。

<之を楽しむものに如かず(論語)>

英検はスピーチコンテストではありません。求められているのは、即興スピーチです。合格する事だけを考えたら、私の勉強法は無駄ばかりだったのかもしれません。しかし、苦労の末、出来上がったスピーチは、どんなに稚拙なものでも、自分には宝物のように思えました。スピーチ作りは正直苦しいものの、楽しさの方が勝っていたのです。「楽しくて勉強せずにはいられない所まで、自分をはめる。」これは、時間のない方にも、そして資格試験を目指すすべての方に有効なやり方であると思います。

<テソーラスで働き始めて>

「一級一次試験を目指す生徒さんに教えてみませんか。」小林先生のお言葉に耳を疑いました。テソーラスで学ぶ生徒さんは、優秀な方ばかりです。教育経験のない私に教えられるはずはありません。釈迦に説法です。涙が出るほどありがたいお誘いでしたが、即答でお断りしました。しかし、尊敬する友人が背中を押してくれました。「挑戦する前に諦めてしまうの?私なら絶対に断らない。」と言うのです。自分で自分に限界を作らないと決めていた事を思い出しました。

今、予想問題を作成したり、スピーチクラスで生徒さんをアシストさせていただいています。皆さん、私の話に熱心に耳を傾けて下さり、次のレッスンで活かして下さる方も多いのです。嬉しい事に、今回、クラス6人中5人の方が合格されました。

「学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、よりいっそう学びたくなる。」アインシュタインの言葉です。英語学習に終わりはありません。これからも、今日できる事を、焦らず丁寧に続けていきたいと思います。

最後に、私を合格に導き、大きなチャンスを下さった小林先生、熱心に教えて下さったネイティブの先生方に心から感謝申し上げます。