「英検1級ホルダーとしての実力を維持すべく、今後も英語学習を継続する」

W.S. 英検1級 2020年

受験の経緯

私は、2019年4月、オリンピック(東京2020大会)の会場を守る部署に異動となりました。その結果、海外の方々との折衝など、仕事で英語を使う機会が劇的に増えました。東京2020大会は、「史上最もイノベーティブな大会」を目指しており、大会ビジョンとして掲げています。私もこれに倣い、何か困難なことに挑戦してみようと考え、2020年第1回試験を受ける構想で、2019年7月、英検1級対策に着手しました。

一次対策

〈語彙〉
最初の半年くらいの間は毎日、「出る順で最短合格! 英検1級 単熟語EX」(ジャパンタイムズ)の単語・例文を書き写したり、音読したりを繰り返していました。どうしても覚えられない単語については、インターネットで「exonerate 語源」「farce 覚え方」などと検索して、何とか記憶に残す方法を模索していました。

また、合格者の大半が使っているという「でる順パス単英検1級」(旺文社)に手を付けていないことに不安を覚えたので、「パス単」を買って流してみたところ、不明な単語が若干ありました。「パス単」と「単熟語EX」は掲載されている単熟語の多くは重複していますが、どちらか片方にしか載っていない単語もあるので、漏れなく覚えるようにしました。
〈例〉rapprochement 和解(〇パス単、×単熟語EX)、consternation 非常な驚き(×パス単、〇単熟語EX)

また、「パス単」と「単熟語EX」で訳語の表示が異なるもの、
・graft → 移植(パス単)、汚職(単熟語EX)consort → 国王等の配偶者(パス単)、付き合う(単熟語EX)もあります。

また、「パス単」にも「単熟語EX」にも載っていない単語が出題されていた例もあります(chastise 厳しく非難する 2018年度第2回)。大問1(語彙)の1問も大問2,3(長文)の1問も同じ Reading の1問なので、語彙には特に力を入れて取り組んでいました。

〈問題集〉
2020年1月からは、本格的に問題集を買い込み、仕事以外の時間は、英検対策中心に費やす生活を送り始めました。
問題集は、
①英検1級総合対策教本(旺文社)
②DAILY30日間 英検1級集中ゼミ(旺文社)
③2020年度版 英検1級過去6回全問題集(旺文社)
④英検 1 級語彙・イディオム問題500(旺文社)
⑤英検1級長文読解問題120(旺文社)
⑥英検1級英作文問題(旺文社)
⑦英検1級リスニング問題150(旺文社)
⑧7日間完成 英検1級予想問題ドリル(旺文社)
を使いました。
また、英検協会のHPから、当時最新の過去問である、
⑨2019年度第3回過去問(英検協会のHP)
を入手しました。

上記①~⑨を全て消化し終えるまで半年かかりました。
本番と同形式の演習は、筆記(Reading、Writing)100分と Listening 約30分で計約130分かかります。私は、過去問7回分(上記③、⑨)、本番同形式の演習4回(上記②、⑧)で計11回の演習をやりました。その結果、Writing(英作文)は自己採点ができないので若干の不安が残るものの、Reading 及び Listening の素点ベースで常時7割以上取れるようになりました。

筆記(100分)を終えた直後に Listening パートに入って行くわけですが、「Listening に入る前に少し休憩したい」という誘惑に駆られることも多かったです。しかしそこは何とか克己して、130分を乗り切っていました。

〈一次本番〉
1年間の勉強を経て、2020年6月28日(日)、一次試験を受けました。もともと一次試験は5月31日に予定されていましたが、コロナ禍の影響で延期となったのでした。一次試験の最大の反省は、早めに会場入りしなかったため、良い席(Listening のスピーカーに近い席)に着席できなかったことです。そのため、Listening 試験中は、遥か遠くのスピーカーに耳を傾けることを余儀なくされました。

一次試験に合格することはできましたが、二次対策は全くやっていませんでした。「一次不合格だったら元も子もない」と考え、一次対策のみに全力投球していたのでした。

二次対策

〈テソーラスハウス〉
一次試験終了の直後、書店に行き、とある英検1級二次試験対策の本を買いました。載っているサンプルスピーチを見ると、立派なスピーチが沢山載っていました。二次試験では、トピック選びとスピーチ草稿の両方を1分間で完了させる必要があります。私は、「二次を独学で乗り切るのは無理だ」と早々に悟り、通学できる学校をインターネットで探しました。テソーラスハウスの HP を見付け、内容を読んでところ魅力的だったので、早速申し込みました。

二次試験直前まで、二次対策コース(5回、全て John 先生)と 直前模擬レッスン(John 先生2回、Emma 先生2回)の計9回通いました。レッスン内容は、スピーチ及びQ&Aの訓練です。それら全てに対し、ネイティブ講師からのフィードバックがあります。小林蕗子校長(数十年に及ぶ英検1級指導歴あり)からのフィードバックがある日もあります。〈自分一人でアウトプット訓練する難しさ〉

一次対策は主にインプットに偏重した「お勉強」主体で特に問題ありませんでした。ただひたすら勉強するだけでした。
それに対して、二次対策で最もやるべきことは、アウトプット、つまり、「1分以内でトピック選び&スピーチ草稿→その後2分間で即興スピーチ」の訓練です。私だけかもしれませんが、自宅で一人で本番同様の緊張感を持ってスピーチ訓練することは非常に辛いです。

「スピーチを実践する前に Example 等のネタを集めよう。勉強して知識を深めよう。スピーチ訓練はその後にやろう」などと考えて、結局楽な方向(お勉強)に流れてしまいがちでした。私は、いつもインプットとアウトプットのバランスが極めて悪い状態にありましたが、テソーラスハウスに通学したお蔭で、半ば強制的にスピーチを訓練して頂くことができました。

〈二次対策中に気付いたこと〉
●スピーチは簡単でよい。英検1級二次対策書に載っているようなスピーチをしなくとも合格可能。日本人があの内容を日本語でスピーチするのも大変だと思います。

●トピックを素早く選ぶためには、即断即決力だけでなく、速読力も必要(トピック選びの目標は10秒以内)。

●スピーチ中に「あー」「うー」「えー」ばかり言っていることが多い。Well や Let me see 等の英語の Filler を使う。

●どうしても Reason を思いつかない場合の対処方法:「最短合格!英検1級 英作文問題完全制覇 」(ジャパンタイムズ)に載っている「Body を考え出すのに困ったら」の頁が役に立つ。

●スピーチの暗誦は無駄。
覚えるとしても、キーワード、キーフレーズ。

●口を大きく開けて、大きな声で、はっきりと発音する。特に、マスク着用だと声が muffle されてしまう。
ある日の訓練スピーチの冒頭で、「日本人にとって diversity という言葉は unfamiliar である」旨を話そうとしましたが、unfamiliar を familiar と聞き間違えられ、出足から make sense せず、支離滅裂な印象のスピーチになったことがあります。

●話す内容に自信がないとき、声が小さくなる傾向あり。

●噛み合った会話をする。
そのためにはリスニング力も大切。ある日のレッスンのQ&Aで、John 先生から、”Why do you think that there aren’t so many foreign workers in Japan right now?”と質問された際に、aren’t を are と聞き間違えて、回答が全く噛み合わず、Interaction が成立しなかったことがあります。

●日本と諸外国では事情が異なる話、例えば、Should there be more decentralization of government?や Are the police doing enough to combat crimes?などのトピックに対しては、冒頭で”Especially in Japan,” と言って日本に特化して話す。

●Smile をして臨もうと言われるも、そのような余裕なし。

●Q&Aに回答する際、ただ返答するだけではなく、because ~, for example, ~と引き延ばす。
Q&Aは4分間と決まっているので、”Yes, it is.”などと簡単な回答ばかり繰り返していると、質問数が増える。Keep asking されないために、go into quite a lot of detail を話す。

●スピーチしやすくなるであれば、自説に固執せず、柔軟に転向する。
・死刑の是非
→ 死刑反対(誤判リスク、終身刑で代用可、低い抑止効果)
・遺伝子組み換え食品
→ 賛成(人口増に伴う食糧危機、遺伝子工学の進展→生態系への影響小)
・E-learning の発展により教職員の価値は低下するか?
→ No(高校や大学等の教員が面接委員を務めることが多いため忖度)

●Q&Aで面接委員から反論された場合、”I think the advantages outweigh the disadvantages.”と断言する。

●場合により、”Some studies have shown that ~.”と補強する(どんな分野でも珍説を唱える学者は存在)。

●時計を見ずに2分間を体感するのは難しい。
〈悪い例〉「時間が押している」と感じて、結論を急いだが、結局1分40秒だった。

●苦戦が予想される topic は避ける。

●レッスン中にやる訓練スピーチは、1回目よりも2回目の方がうまく行くことの方が多い。
そのため、本番当日も事前の口慣らしするとよい。

〈様々なトピックについて事前対策〉
テソーラスハウスのレッスンで取り上げられたトピック以外にも、インターネット上で出回っているトピック、「2020年度版 英検1級過去6回全問題集」(旺文社)に掲載された過去トピックを見て、「これが出題されたら、こういう Reason1、2を掲げてスピーチしよう」と準備しました。最終的には、試験前日までに約300トピックについて、Yes/No どちらか及び Reason2つを用意しました。
例えば、
・Is privatization a good thing?
→ Yes. ・・・Reason① サービス/利用者の利便性の質向上、Reason② 税収増
・Can humanity overcome its violent tendencies?
→ No. ・・・Reason① human nature、Reason② 争いの種尽きず。話し合いは大抵不調→実力行使
という感じです。Example がないとスピーチは1分40秒程度で終わってしまいますので、可能な限り Example も収集するようにしました。その結果、トピックにより得意・不得意はあるものの、最終的には「何でも聞いて下さい」という精神状態になって面接に臨みました。もはや行ける気しかしませんでした。

二次試験

2020年8月22日(土)午前
非常に暑い日でしたが、白色ワイシャツ、スーツ上下を着用して、早めに会場入りしました。英検協会から指定された持ち物以外では、チョコレート、ハンカチ、扇を持って行きました。受験者は「マスク着用は必須」との指示がありました(面接委員はフェイスシールド着用)。Loud voice がますます大切です。早めに会場入りしたので、面接の順番も早い方でした。

入室後、面接委員(日本人)から”What do you do in your free time?”と聞かれ、準備して行った自己紹介を話しました。
Emma 先生から教わったジョークをそのまま話したところ、雰囲気が少し和んだ感じがしました。

続いて、面接委員(外国人)から”Tell me about yourself.”と聞かれ、これも台本通りの内容を話しました。
さて、面接委員から緑色のカード受け取りました。カードを一瞥したところ、

5. ~ capital punishment ~~
というフレーズが見えましたので、「考えたことのあるトピック」と判断し、トピック1~4は全く読まずに、

5. Is capital punishment an effective deterrent to crimes?
に即決定してスピーチの草稿を開始しました。

私自身は元々、死刑賛成派でした。しかし、テソーラスハウスのレッスンの中で「欧州では死刑廃止が主流。死刑廃止はEU加盟の条件」「死刑制度が犯罪の抑止力にならないのは定説」との情報を得たり、講師から論破されたりした後、私は死刑反対派に転向したのでした。

本番のスピーチでは、死刑反対の立場を貫き、Example として、
・日本、アメリカ、中国などは死刑採用国だが、凶悪犯罪を抑止できていない。
・死刑廃止国で犯罪が特に増加していない。
・刑事事件では、物的証拠がなく供述証拠のみで有罪となるケースもあり、誤判のリスクが高い。
等を挙げました。

その結果、スピーチは、危惧していた「時間余らせる」ではなく、2分オーバーで打ち切ってもらうことができました。Q&Aは、まず1問目が日本人面接委員から切り出され、無難に回答できました。2問目は外国人からでしたが、私は質問の内容が聞き取れず、その部分について聞き返しました。それでもまだ理解できなかったのですが、再度聞き返してしまっては Interaction の減点は必至と考え、見切り発車で回答したところ、面接委員は「???」という顔をしていました。3問目 Question を日本人が話している途中で4分経過し、打ち切りとなりました。

二次試験は約10分で終了しました。
テソーラスハウスには計9回通い、支払った学費は私にとっては安くありません。
二次対策(勉強・訓練)のために費やした時間は150時間を超えます。
これら全ては、この僅か10分の面接試験のためです。
その価値は十分にありました。

合格後

勉強を開始して1年2か月以上経ち、ようやく英検1級合格を勝ち取ることができました。
東京2020大会に関連して英語を始めましたので、私にとって最大のオリンピック・レガシーと言えます。既に英検1級を持っている同僚に合格を伝えたところ、「Congratulations! さて、1級を持っていると相当英語ができると周りから評価されるので、英語力を落とさない努力が必要になる。これが結構大変。」とのアドバイスを貰いました。

合格はゴールではなく通過点であることを再認識しました。
また、英語を話す機会を自発的に作って行かないと、英語力は急落して行くことを自身の経験で知っています。今後、英検1級ホルダーとして恥じない英語力を維持するため、インプット(勉強)とアウトプット(訓練・発話)をバランス良く継続して行きます。テソーラスに通わなければ英検1級合格はあり得ませんでした。
小林校長、John 先生、Emma 先生、大変お世話になりました。